緩和ケアの普及に診療報酬制度が追いついていない.

結果的に,医療側にとってケアの質を確保しにくくしている.制度面の整備は遅れている.

 医療現場の認識も不足しているようだ。世界保健機関(WHO)は1986年、報告書「がんの痛みからの解放」を出し、モルヒネなどの鎮痛薬の有効性を提示した。向山医師も「モルヒネなどの医療用麻薬は、適正に使えば中毒の心配はなく、寿命を縮めることもない」と指摘するが、日本の1日当たりのモルヒネ消費量はカナダの10分の1、アメリカの7分の1だ。アンケートでも、「医師への緩和ケア教育が必要」「専門医が足りない」という声が寄せられた。

 ただ、緩和ケア病棟での治療の幅は、確実に広がってきている。

 アンケートで抗がん剤治療を全く行わないと答えた施設は32%。7割近くの施設が、患者を他の診療科に転科させるなどして抗がん剤治療を行っていることが分かった。放射線治療については、8割の施設が実施していた。ほとんどの施設で通院治療を行っており、56%の施設では、往診も実施している。

 緩和ケア病棟の経営の難しさを指摘する意見も多かった。緩和ケア病棟の収入の基本は、患者1人当たり1日3万7800円(うち患者負担は1〓3割)の入院料だ。一般病棟では、薬代や手術代など、それぞれ国が決めた医療費(診療報酬)を医療機関が受け取る「出来高払い」が基本だが、緩和ケア病棟では、治療の内容にかかわらず医療費が一定の「定額制」。患者のために高い薬を使ったり、手厚い体制を整えたりすればするほど、医療機関の負担が増す仕組みとなっている。