緩和医療

日本の緩和ケアの課題点.欧米で緩和ケアに携わる医師は,100種類あまりの鎮痛薬を処方しているという.日本では末期ガン患者に対する緩和ケアの実施=治療からホスピスケアへの切り替え(治療中断)という認識が医師患者の両方にあり,治療と組み合わせた「医療用麻薬」の積極的な投与という概念が育っていなかった.欧米では緩和ケアの概念が普及しており,鎮痛薬の処方量がはるかに多く,末期ガン患者の痛みの大半を取り除くことができるとされている.

「痛みのコントロールは95%可能。急変といってもほとんどが想定内で、医師が自信を持って説明すれば、患者、家族の不安もなくなる」と梅田さんは話す。

 世界保健機関(WHO)の「がんの痛みからの解放―WHO方式がんの疼痛(とうつう)治療法」は、痛みの程度を3段階に分け、段階ごとに取り除き方を提示している。モルヒネなど医療用麻薬(オピオイド)を使う方法で、約90%のがん患者の痛みを除くことができると言われている。

 治療法の確立に参加した武田文和・埼玉医科大客員教授(元埼玉県立がんセンター総長)は「日本での検証では97%の人がほぼ痛みがなくなり、残り3%も軽減した」と効果を語る。

 しかし、現実には多くの患者が痛みで苦しんでいる。日本でも緩和ケア病棟が150を超え、在宅ホスピスも広がっているのに、梅田さんのような診療をしている医師は少数だ。

 厚生労働科学研究(2003年)によると、痛みが取り除かれているがん末期の患者は、がんセンターなど専門病院でも64%で、一般病院では47%、大学病院では40%に過ぎない。

 医療用麻薬の消費量もアメリカの7分の1と、先進国では最低レベルだ。武田さんは「日本の医療者は医療用麻薬を使わない。使う際にも時期が遅れる上、十分な量を使わないのが問題」と指摘する。