コミュニケーション戦略

マスコミを通じた政党による世論操作が,ここまでデータに基づいて徹底して行われたことは,前回の解散総選挙までなかったということのようだ.スポーツの世界では,サッカーやバレーボールなど,相手チームの詳細なデータを元に戦略を練って練習することが一般的という種目は多い.しかし,当然ながら政治はスポーツではない.一国の総裁の発言や一挙手一投足が,パブリックな印象という側面を中心に計算されたものになることは,民意に対する操作性を洗練させてゆくことになり,政治の本筋からは健全ではない.

 テレビに対しては、さらに戦略的に対応した。コミ戦が発足した 10日直後には、すでにテレビ出演を行う幹部のスケジュールが綿密に立てられていた。
〈第1週は、安倍幹事長代理を中心に。第2週はマニフェストも出始めるから政策に強い与謝野馨政調会長竹中平蔵郵政民営化担当相。第3週から公示にかけて、いよいよ武部幹事長小泉首相を登場させる……〉
 放送された番組は、すべて幹部が何を話したかまで細かくチェックし、問題があればすぐに修正してもらう。また、ある幹部が年金問題について弱ければ、事前にコミ戦からメンバーを派遣し、年金問題についてレクチャーするといったようなことも行った。
 逆にテレビを使って“攻める”ことも実践した。
民主党の出演は菅直人だという。ならば、こちらは論客で、かつ冷静に笑顔で対抗できる竹中をぶつける。竹中が淡々と説明していれば、“イラ菅”と言われるほど短気な菅は我慢できなくなって興奮する。竹中は視聴者に好印象を与えることができる〉
民主党川端達夫幹事長はテレビ慣れしていない。テレビ局から討論会の出演依頼があった場合、「こちらは武部を出すから、民主も幹事長を出さなければバランスが取れない」と交渉し、川端幹事長をテレビに引っ張り出す〉  民主党が聞いたら怒り出すような、こんな「議論」がコミ戦では積極的に行われていた。今回の選挙で、いかに自民党が組織的、戦略的にメディアを味方につけようとしていたか――その好例であろう。